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『私の自利利他』vol.8 長岡療育園(崇徳厚生事業団Letter令和4年1月号)

『私の自利利他』vol.8 長岡療育園(崇徳厚生事業団Letter令和4年1月号)

長岡療育園で勤務する太田さん

 

社会福祉法人 長岡福祉協会が運営する長岡療育園は、重症心身障害児(者)を対象とした、療養介護施設・医療型障害児入所施設である。

 

2012年施行の法改正以前は重症心身障害児施設と呼ばれており、長岡療育園は1979年に新潟県初の民間重症心身障害児施設として開設した。現在も、同型の民間施設としては県内唯一となっている。

 

 

重症心身障害児とは、児童福祉法上の定義によれば「重度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している児童」のことだ。この定義はあくまで行政上のものであり、医学的な定義は明確ではない。

 

基準としては“大島分類”という方法で判定することが一般的と言われ、大島分類では、知的障害の度合いとしては知能指数が35以下で、かつ運動障害の度合いとしては「走れる」、「歩ける」、「歩けない」、「座れる」、「寝たきり」のうち「座れる」か「寝たきり」にあたる児童が重症心身障害児と判定される。

 

多くの入所者は、車椅子を押してもらって移動し、食事・排せつなどの生活動作も全介助が基本。また、医療的ケアも必要としており、長岡療育園は児童福祉法上の福祉施設でありながら、医療法上の病院でもある。

 

 

長岡療育園にある3つの病棟のうちササユリの名のつく2病棟に勤務するのが、保育士の太田愛永(おおた まなえ)さん。

 

出身は、長岡市よりもさらに雪深い新潟県南魚沼市。高校卒業後、長岡こども福祉カレッジで保育士の資格を取得し、2020年に長岡福祉協会に入職して現在2年目とフレッシュな若手職員だ。

 

今回の取材で、医療型障害児入所施設である長岡療育園に勤務する保育士がいることを初めて知ったが、まずはどのような役割を持って働いているのかを伺った。

 

 

「精神的な発達は実年齢どおりというわけではありませんが、2病棟に入所されている方は一番若くて20代、高齢な方だと70代なので、一般的な『保育』のイメージとは違いますし、正直に言うと私も入職したとき少し驚きました。

 

長岡療育園では保育士は介護さんと共に“育生(いくせい)”と呼ばれていて、日々の業務は同じ育生であれば私たち保育士と介護さんとでほとんど違いはありません。」

 

 

育生の仕事は、食事・排せつ・入浴・更衣など生活全般の介助・支援、そして、個別支援計画を基に実施する活動などだという。

 

保育士ならではの目線で利用者の発達年齢から日々の療育や活動を考えていることも伺えたが、全体的には高齢福祉施設の介護福祉士や障害福祉施設の支援員に近く、やはり保育士のイメージとはやや異なる。

 

保育士養成のカリキュラムの中には障害児保育の講義や障害福祉事業所等での実習も含まれるが、長岡療育園での業務は大きく違った。

 

 

「学生時代に就労支援事業所での実習はさせていただきましたが、障害の度合いが全く違うので、入職以来ずっと苦戦しています。

 

例えば衣服の着脱をするときも、手や脚が拘縮して固まっていると、どこまで力を入れていいのかわからなくて。かといって力が緩むわけでもないので、『ちょっとごめんね』って思いながら……。

 

排せつ交換も、食事介助も、移乗の仕方も、最初はずっと全部付きっきりで教えてもらいました。

 

言葉を話せない方も多くて、聞き取るのも大変で、最初は何を話してくれているのかもわかりませんでした。でも、嫌という気持ちを表情に出してくれる方もいますし、ちょっとした首の振りで嫌だということがわかるようになってきました。

 

表情のほかにも声のトーンだったり、その方なりの感情の伝え方があります。意思表示を読み取るには、たくさんの声掛けや一人ひとりに向き合うことが大切だと感じます。

 

関わらせていただいているなかで、名前が言える方、覚えられる方に名前を呼んでいただけると、『覚えててくれてる!』と嬉しい気持ちになります。」

 

 

手厚い介護・療育に加えて医療的ケアを必須とする重症心身障害児(者)は、日々の生活を続けていくだけでも簡単ではないが、決して長岡療育園の育生や他の職員は、利用者がただ生きていくためだけに居るのではない。

 

崇徳厚生事業団グループの他の事業所、あるいは、福祉全般に言えることではあるが、福祉施設職員の仕事は、目の前の利用者がその人なりにその人らしく前向きにより良く生きることに寄り添うことである。もちろんそれはここ長岡療育園でも何ら変わらない。

 

 

「今年は2年目になって、利用者さんの担当につかせてもらうことになりました。2名担当させていただいているうちの一人の方とは、前任の担当から引き継いで、手紙を制作する活動を行っています。

 

手紙の送り先は、以前に長岡療育園にいらっしゃって、今は別の施設へ移られた方です。別の施設に行ってしまって、会いたいけど今はコロナ禍もあって会えないので、手紙を送りたいということで始めました。

 

まずは利用者さんが満足できる手紙が作れたらいいなと思っていますが、利用者さんが何を伝えたいか、どんなふうに制作したいかを出来るだけくみ取って、『自分もやった』という実感を持っていただけるようにと心掛けています。

 

文章の内容は、例えば今年あったことを『今年はこういうことがありましたよね』、『花火大会がありましたね』と話しかけて何を伝えたいかを聞いて私が書きます。

 

利用者さんと一緒に制作するために飾りを貼りたいなと思って、糊では難しいのでシールを準備しました。利用者さんとたくさん話をして頷きや首を横に振るなど意思表示を読み取りながら、ハートや花やリボンなど、本人の好きな色や形のものを揃えました。

 

貼る時も、ピンクが好きなんだろうなと私が思っても、『ピンクがいいですか?青がいいですか?』と聞いて、貼る場所も聞いて。貼る作業は、その方の動かせるところ、手首や手の甲を使って利用者さんに貼ってもらいます。

 

作っているとき、利用者さんはずっと笑ってくれていて、嬉しそうです。

 

私も利用者さんたちにはいつも笑顔で関わることを心掛けていますが、それだけではなく、一人ひとりの特徴や障害を理解した上でそれぞれに合った支援が出来るように考えながら行動すること、そしてその方が今出来ていることを維持して、もう少し引き出していくことを目標にしています。」

 

 

活動は個別に行うものだけではなく、集団で行う行事もある。太田さんは現在、毎月行う誕生会係の一員でもある。

 

 

「誕生会では誕生者にメッセージカードを贈るので、誕生会係がカードづくりをします。写真を貼ってメッセージをかけるところを作って、担当者にメッセージを書いてもらいます。

 

当日は他の利用者さんたちと歌を歌ったり、誕生者にまつわるクイズを楽しんだり。作ったメッセージカードは他の利用者さんが職員と一緒に読んで、『おめでとうございます』と渡すんです。その日は一年に一度その利用者さんが主役になれる日になります。

 

準備をしているときは大変ですけど、誕生者の利用者さんや他の利用者さんが楽しんでくれている顔・表情を見ると『やっててよかったな』と感じます。」

 

 

保育士養成施設を卒業して長岡療育園に入職し、戸惑いも大きかったであろうし、2年目の終わりが近づいてきた現在も、まだまだ成長過程にあることも事実だろう。

 

技術や経験を増やしていくことはこれからも必要かもしれないが、太田さんが長岡療育園での仕事に向かう根本の想いや姿勢には何も心配する必要がないことも感じることが出来た。

 

「年齢が近かったり、逆に両親のような世代で、楽しいし面白いし話しやすい」と言う優しい先輩方に導かれ見守られ、これからも大きく成長していく姿を期待していきたい。

 

<取材後記>

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

今回の取材対象者の選定にあたり、2年目ということもありフレッシュな意見が伺えると思い、同じ病棟の太田さんを推薦しました。

 

少しシャイなところもある彼女ですが、一つひとつ丁寧に、真摯に仕事に向き合う姿にいつも感心しています。

 

重症心身障害児施設と聞くと、「雰囲気が重そう」「怖い」・・・もしかすると、そんなイメージがあるのではないかと思います。

 

でも実際には、我々と同じように、それぞれの個性を活かし自分自身に出来る表現方法で、毎日を過ごしています。

 

この記事を通じ、そんな活力のある毎日の様子を知っていただけたら嬉しいです。

 

(取材・編集:社会福祉法人長岡福祉協会 長岡療育園 保育士 阿部 瑞保、崇徳厚生事業団事務局 石坂 陽之介)

 

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