『私の自利利他』vol.7 介護老人保健施設桃李園(崇徳厚生事業団Letter令和3年11月号)
介護老人保健施設桃李園で勤務する小黒さん
平成8年10月に開設し、このたび25周年を迎えた介護老人保健施設桃李園。運営法人である長岡老人福祉協会も50周年を迎えており、その歴史の半分を桃李園とともに刻んできたことになる。
介護老人保健施設、いわゆる“老健(ろうけん)”は、病院と自宅との橋渡しを行う施設とも言われ、リハビリのスタッフと設備が充実していることが特徴。桃李園に所属する5名のリハビリスタッフの一人が、作業療法士の小黒桃子(おぐろ ももこ)さんである。
作業療法士を志しはじめたのは高校生のころ。祖母が入院した際にリハビリテーションの専門職があることを知り、進学を見据えて調べていくと、理学療法士のほかに、作業療法士や言語聴覚士といった職種があるとわかった。
作業療法士というと、一般的には手のリハビリなどのイメージが強いが、活動を通したリハビリや心のケアを取り扱うのも作業療法の領域であることがわかり、「自分に合うと思った」とのこと。
学生時代、県外の介護老人保健施設での実習を通じて老健への就職を希望。ご両親の要望もあって長岡市内で就職先を探していたところ、桃李園の求人を見つけて応募・入職し、以来、桃李園での勤務を続けている。
「病院での実習は、入院期間中に患者さんの機能を向上させていく、戻るところまで戻すリハビリをするといった印象でした。リハビリメニューを組んで、実施して、どう変化したかを評価してと、それだけでいっぱいいっぱいで、患者さんとじっくり関わるということがなかなか出来ませんでした。
一方、老健での実習は、その人の生活にグッと入り込んでという印象でした。担当する一人の利用者さんに丸々一日くっついて、その人の生活を全部見て評価して、『じゃあ、何をしていくか』を考えてアプローチしてという実習期間は、自分にとっては楽しかったです。
担当したのは認知症の比較的重い利用者さんで、反応もほとんどありませんでしたが、一日丸々一緒にいたりするとちょっとした変化が見られることがあります。そういうことが嬉しかったのが、一番大きかったと思います。」
「今日も良い一日だった」と利用者に思っていただけるような関わりを
療養棟に入所する利用者約100名のリハビリを主に担当しており、個別・集団訓練を提供している。心掛けるのは、「今日も良い一日だった」と利用者に思っていただけるような関わりだ。
「自分がもし年をとって『出来ることが少なくなってしまった』と感じるときを想像したら、やっぱり楽しく過ごしたいだろうと思います。
だって、つまらない一日って嫌ですよね。自分で出来ることが少なくなってしまったとしても、つまらない一日が嫌なのは利用者さんたちも同じはずという思いがずっとあります。
気持ちって体の動きにも連動してくるので、出来なくなってしまったことで気持ちが落ちると身体も具合が悪くなって、どんどん悪循環になってしまうから。私たちが活動やリハビリを提供することで、利用者さんの一日のなかで『この瞬間楽しかったな』ってひとコマでも思っていただける関わりがしたいです。
『なにやりたいですか?』と聞いてみて『別にしたいことなんてない』って言われる方でも、実際はみんなと一緒の空間に居るだけで表情が変わったりとか、いつもとは違う反応が見られたりということはよくあります。
そういうところを探っていく、その人のことを深く知るためにじっくり関わって、そういうところを引き出していけるようにと仕事をしています。」
「自分がいつも楽しくいたい性格」とも語る小黒さんだが、ただ楽しい時間を過ごすだけではなく、やはりそこには作業療法士としての専門性が活かされる。
「例えば音楽療法でも、初めていらした人が傍から見たら『歌ってるな』くらいしかわからないと思いますけど、やっている私たちリハビリスタッフはものすごく考えています。
その人その人の役割を持っていただくのも音楽療法の一環としてやっていることなので、参加する意義、やりがいをもってもらうためにその人の得意な部分を探して、『この人はこれが得意だからここでマイクを持って歌ってもらおう』とか。
それに皆さんの配置も、職員が関わらないと眠ってしまう方は前にしようとか、このふたりが隣にいるとずっと喋っちゃうから離して座ってもらおうかとか(笑)。
それで40人くらいの利用者さんを担当スタッフ3人で回しながら、利用者さんの表情や動きや姿勢をずっと見て。終わったら毎回振り返りを行って『ここは良かったね』、『ここを今度はこうしてみようか』と話しています。
音楽療法のプログラムは私が入職する前から桃李園に受け継がれてきたもので、流れは一緒ですけど、同じ音楽療法でも毎回違う。ただ歌を歌って楽しく過ごしているだけじゃないというところはわかってもらいたいですね。」
いまや、リハビリスタッフの先輩たちから「活動は小黒さんに任せておけば大丈夫」と太鼓判を押されている小黒さん。だが、当初は不安もあったそうだ。
特に、入職当時にリハビリのリーダーをしていた作業療法士の先輩が、小黒さんがまだ1、2年目のころに退職されることになったときは大きな不安を抱えたが、先輩の言葉で前を向くことが出来た。
「活動の主をやってきてくれたのはその方で、頼りにして尊敬していた先輩が辞めることになって、『私はまだOT(作業療法士)として全然何も出来ないのに』と不安でした。でも、今の主任が『私はPT(理学療法士)だから活動については専門性がない。けれど小黒さんは活動が得意だから、そこを頑張ってもらいたい』と、OTとしての私を認めてくださいました。すごく嬉しくて、不安もあったけど頑張ろうって思えました。」
「集団の活動を止めたくない」
進展し続ける高齢社会のなかにあって、3年ごとの介護報酬改定により、老健の役割、そして老健でのリハビリに求められることが変わりつつある。直近の改定で大きかったことは、入所利用者全員に週に2回の個別リハビリが義務づけられたことだ。
「100人いる入所利用者さん全員に、少ないリハビリスタッフで週に2回の個別リハビリを実施するとなると、集団での活動に使える時間がどうしても少なくなります。
確かに、例えば自宅復帰のために階段が昇り降り出来るようにならなきゃいけない利用者さんなどであれば、個別リハビリでそういったトレーニングを実施する効果は高いと思います。でも、全ての利用者さんにとって集団の活動よりも個別リハビリのほうが充実していると言えるのかというと……。
利用者さんたちからも音楽療法やゲートボールや制作活動といった集団の活動を求められる。私としても集団のほうが反応を得られることが多いし、活動性も上がって元気になるし、集団の活動を止めたくないという気持ちが自分の中でありました。」
そういう基準に変わったからと、制度に求められることだけをやっていたほうが職員は楽かもしれない。しかし、小黒さんと桃李園のリハビリスタッフは、基準への適合と、自分たちが利用者のためになると信じる活動との両立を模索した。
「改定があったときにリハビリスタッフでミーティングをして、これまでやってきた業務で、みんなが続けたいことは何かを主任が聞いてくれて、私は『活動は止めたくない』と言いました。
そこから、やらなきゃいけないことをやったうえで、それ以外のことが出来る時間を上手に作っていくために、リハビリスタッフの配置を変えたり、漏れやダブりなく利用者全員に2回の個別リハビリを出来るようチェックシートを作ったりと、無駄なく効率よく実施できる流れを、リハビリスタッフ5人がチームになって作ることが出来ました。
午前に個別リハビリを実施して、午後に利用者さんが楽しみにされている活動を行う時間を確保してと、いまはやりたいことが割と出来ています。」
今年度はノーリフティングケア(抱え上げない介護)委員会の委員長を任されるなど、経験を積むとともに役割は大きくなり、変わっていく。
しかし、利用者が「今日も良い一日だった」と感じてもらえるよう、自分の楽しさが相手に伝わるよう、全力で楽しく仕事がしたいという小黒さんの想いはこれからも変わらない。
<取材後記>
まずは最後までお読みいただきましてありがとうございました。
今回の取材対象者の選考にあたっては、『私の自利利他』にまだ取り上げられていない様々な職種が候補に挙がりました。そして、最終的にリハビリスタッフからと決まった段階で、私の頭に真っ先に小黒さんの名前が思い浮かびました。
実際の取材でも、持ち前の明るさを魅せながら、利用者様や仕事に対する思いを熱く語ってくれました。時々脱線してしまったこともあり、あっという間に1時間半も経ってしまっていました(笑)
取材はとても明るい雰囲気で、普段なかなか見られなかった一面も見ることが出来ました。
今後も介護報酬改定のたびに壁にぶち当たり、それまでどおりに仕事が出来ないこともあるかもしれませんが、きっと一緒に乗り越えてくれることと期待しています。
そして、その明るさでいつでも周りの皆さんを楽しませてくれることでしょう♪
次号もお楽しみに。(取材・編集:社会福祉法人長岡老人福祉協会 介護老人保健施設桃李園 リハビリテーションリーダー 大久保 峻、崇徳厚生事業団事務局 石坂 陽之介)
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